事務所ブログ

2020.06.04更新

1 新型コロナウイルによる経済の落ち込みと政府等の対応

 中国・武漢市から始まった新型コロナウイルスの感染症拡大に伴い、令和2(2020)年4月7日、政府は新型インフルエンザ等対策特別措置法32条1項に基づく緊急事態宣言を発令しました。その後、5月25日に至り、緊急事態終結宣言が発令されましたが、感染拡大の危険は去ったわけではなく、今後共、都道府県の対策本部長である知事からの完成予防のための協力要請がなされる状況が継続します。

 こうした中、多くの業種が営業自粛・外出自粛により経済的な損失を被り、、賃借物件で営業している業者は、売上がなくなり、賃料支払いが困難な状況となっています。

 国土交通省では、緊急事態宣言発令前の3月31日、各不動産関連団体の長に宛てて、テナントの窮状に配慮して賃料の支払い猶予等に柔軟に対応するように申し入れていおりましたが、4月17日にはテナントからの賃料の減額や猶予に応じた店舗・ビルの賃貸事業者に対する固定資産税の減免や、国税・地方税・社会保険料の納付猶予を内容とした対策を講じることとしました。

2 賃料の減免

 危難に際しては社会全体で応分の犠牲を負担し合うべきであり、テナントである小売業者やサービス業者が営業自粛により感染症対策に協力する以上、オーナーである店舗・ビル等の賃貸業者は賃料の減額や免除等に応ずるべきことは当然であるといえます。

 建物でも土地でも、賃貸借契約で決めた賃料を増減額するには貸主と借主との合意が必要です。しかし、実際には、テナントから賃料の減額を申し入れても、オーナーがこれを承諾して合意が成立するケースは稀であり,賃料は固定化しがちです。そうなると、今回のような非常事態や不況時には、賃料の支払いが厳しくなったテナントは、結果的に賃料を踏み倒して夜逃げする等して、オーナーも手痛い損害を被ることになります。

 コロナウイルスの感染拡大による経済の停滞は、感染収束により緊急事態終結宣言が出された後も相当長引く可能性があり、業種を問わず、暫くの間、賃料減額が重要な経営課題となるでしょう。

3 賃料減額請求の手続

 一般論としても不動産相場や経済情勢の変動に伴って賃料を増減額する必要性は否定できませんから、借地借家法ではその手続を規定しています。借地では「地代等増減請求権」(同法11条)、借家では「借賃増減請求権」(同法32条)として、土地・建物それぞれの賃料の増額・減額双方の請求権を規定しているのです。

 以下、借家(建物賃貸借契約)の借賃減額についてのみ説明します。

 先ず、借賃減額を求めるテナントは、オーナー(サブリースのように貸主がオーナーではない場合もありますが、以下、オーナー=貸主とします)に対して、借賃減額請求権を行使します(借地借家法32条1項)。具体的には、「現在●●円の借賃を、〇月分から、××円に値下げをお願いします」等と記した通知を配達証明付きの内容証明郵便で送ることになります。このような方法をとるのは、借賃減額請求権がその行使時(通知到達時)から将来に向かって借賃の減額という法律効果を発生させる「形成権」という権利であり、このことから減額請求をしたこと及びその通知がいつオーナー側に到達したのかについての証拠が必要だからです。

 しかし、実際にオーナーが減額を承諾しなければ、テナントはオーナーと協議をせざるを得ません。本来、合意で定められる借賃について、テナントの都合で減額幅まで決めるのは、余りにオーナーに不利だからです。

 にもかかわらず、借賃減額請求権行使時から減額の効果が発生するとするのは、後日、オーナーとテナントとの協議により合意された新しい借賃を、減額請求時に遡って適用するための一種の法律上のフィクションなのです。このようにしないと、オーナーは協議を引き延ばすことにより、従来の賃料を維持できてしまいますので、このようなことを防止するためのフィクションなのです。

4 借賃減額請求を受けたオーナーの対応

 多くの場合、テナントから借賃減額請求を受けたオーナーは、減額を承諾せず、借賃減額協議が成立することは稀です。このような場合、テナントは、裁判手続で適正な借賃(要するに減額幅)を決めてもらうことになります。

 先述のとおり、法律上は、借賃減額請求のときから減額の効果は生じることになっていますが、減額請求を受けたオーナーは「減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払いを請求することができる」のです(借地借家法32条3項)。オーナーは、減額請求前の借賃を「相当」な額として請求することになります。

 このため、テナントは借賃減額請求をしても、従前どおりの借賃を支払い続けなければならないことになります。

5 借賃減額の裁判手続

 テナントは、借賃減額請求をしてもオーナーとの協議が整わない以上、裁判手続で適正な借賃を決めてもらう必要があり、これは、「借賃確認請求訴訟」という形式の「訴訟」になります。

 ところが、賃料の増減額に関して訴訟を提起するには、その前に「調停」という裁判所での話合いの手続を経なければならないとされています(民事調停法24条の2第1項)。これを「調停前置」といい、仮に、いきなり訴訟を提起しても、裁判所は、事件を調停に回付して話合いを先行させることになります(同法同条2項)。

 そして、調停での話合いをしても決着がつかなかった場合、初めて訴訟を提起できることになります。訴訟では、裁判所が不動産鑑定士を鑑定人に選任して適正な借賃が幾らかについて鑑定意見を徴したうえ、これに準拠した判決をするのです。

 このようにして判決で決まった新たな借賃の額は、借賃減額請求権の行使時に遡って適用されます。オーナーは、「相当」として支払わせていた減額前の借賃と、減額後の借賃との差額分に年率10%の利息をつけてテナントに返還しなければならなくなります(借地借家法32条3項)。

6 テナント側から勝手に借賃を減額して支払った場合どうなるか

 以上のように、借地借家法の借賃増減請求権の手続ではテナントの判断で借賃を減額して支払うことは認められておらず、調停+訴訟という手続が継続する間、減額前の借賃を支払い続けなければなりません。

 このような手続の継続中でも、テナントが借賃を減額して支払うと、減額分は未納となり、これが積み重なって概ね賃料3か月分程度に達すると、賃貸借契約について解約の「正当事由」或いは契約を継続しがたい「信頼関係の破壊」があるとして、オーナーからの解約を認めるのが判例の傾向です。

 しかし、今回のように危急に際して営業を自粛して協力したテナントが、減額請求をして減額分を差し引いた借賃を支払ったとしても、やむを得ない事情が認められ、更に、オーナーも感染防止のための痛みを分かち合うべきであることに鑑みると、裁判所は、安易に「正当事由」や「信頼関係の破壊」ありとして、賃貸借契約の解約を認めて立退きを命ずる挙には出られないと思います。

 更に開き直った考え方をすれば、仮に、毎月40%の減額をしても、解約が認められるひとつの基準となる賃料3か月分の滞納を超えるのは8か月目なのですから、オーナーが借賃減額に応じなくても、この期間は緊急避難的に凌ぐことはできるでしょう。

投稿者: 三堀法律事務所