事務所ブログ

2020.06.05更新

1 改正民法の施行と主要な改正点

 平成29(2017)年5月26日に国会で可決成立し,同年6月2日に公布された「民法の一部を改正する法律」(民法改正法)は,令和2(2020)年4月1日より施行されました。

 今回施行される民法改正法は,明治29(1896)年に制定された民法の財産法の分野についての約120年ぶりの大規模な改正であり,ホール営業にも少なからぬ影響を与える。

 今回の民法の大改正の中でも主要な改正点は,一つ目は消滅時効の見直し,二つ目は法定利率の見直し,三つ目は保証の見直し,四つ目は債権譲渡に関する見直し,五つ目は定型約款に関する規定の新設,そして,六つ目は瑕疵担保責任の見直しです。

2 消滅時効の見直し

 消滅時効とは,一定期間権利を行使しなかった場合,その権利が消滅してしまうという制度です。

 改正前は,民事債権の消滅時効期間は,権利を行使できる時から原則10年でしたが,例外的に職業別に短期の期間が定められており(飲食料や宿泊料は1年,弁護士の報酬や小売商・卸売商の売掛金は2年,医師・助産師の報酬は3年等),それとは別に,商事債権は5年という期間が定められておりました(現行民法167条,170~174条,旧商法522条)。

 しかし,短期の消滅時効期間について,例えば下宿料金には1年の時効期間が適用されるのか等の問題がありました。
改正後は,債権については,権利を行使できることを知った時から5年,権利を行使できる時から10年,債権又は所有権以外の権利は行使できる時から20年とされました(改正民法166条1・2項)。

 その他,時効の進行が止まる中断・停止についても整理されました(改正民法147~161条)。

3 法定利率の見直し

 法定利率とは,当事者間で利率を合意しなかった場合の利息や遅延損害金等に適用される利率です。

 改正前は,民事5%,商事6%の固定性で定められていましたが(現行民法404条,旧商法514条),市場金利からの解離が甚だしくなっておりました。

 改正後は,一律に3%とされたうえ,施行後3年毎に利率を見直す緩やかな変動制とされました(改正民法404条)。

4 保証制度の見直し

 保証とは,主たる債務者が債務の履行(支払い等)をしなかった場合に,これに代わって支払いをする義務のことです。

 改正前は,特定の債権者に対する債務を包括的に保証する「包括根保証」については,保証開始後に発生した債務も対象となることから保証債務の額が無限に増大する可能性があるため,貸金等の債務を対象とする場合に限り極度額(上限額),元本確定期日(保証期間)及び主債務者の死亡・破産による元本の確定が定められて保証人の保護が図られていました(現行民法465条の2~465条の4)。

 改正後は,貸金等債務以外の,例えば不動産の賃借人の債務の包括根保証についても,同様の保護が拡張されました(改正民法465条の2~465条の4)。

 また,改正後は,事業用融資について経営者以外の第三者(法人の役員や支配株主及び個人事業主の共同事業者や事業に従事している配偶者以外の者)が保証契約を締結する際の公証人による保証人本人の意思確認の制度(改正民法465条の6~465条の9),及び保証契約締結時における主債務者による保証人への情報提供義務(同465条の10)という制度も新設されました。

5 債権譲渡に関する見直し

 債権譲渡とは,例えばAが甲に対して有する貸付金債権をBに売り渡して早期に現金化したりするために利用されます。

 改正前は,債権譲渡の対象となるのは既存の債権だけであり,また,既存の債権でも当事者の一方でも譲渡を禁止した場合には譲渡は無効とされていました(現行民法466条1・2項)。

 改正後は,現に発生している債権だけではなく,将来発生する債権も譲渡の対象になり,また,譲渡禁止の合意があったりその旨の意思表示があった債権についても譲渡の対象になることを認め,譲受人が譲渡禁止を知っていたり重大な過失により知らなかった場合に,譲渡の無効を対抗できることとしました(改正民法466条)。

6 定型約款に関する規定の新設

 「定型約款」とは,業者が一般消費者等を相手に,画一的な商品やサービス(当然一定のオプションはあるのが通常です)を提供する「定型取引」(生命保険契約や市販のソフトウェアの使用許諾契約,クリーニングの請負契約等がこれに該当します)のために,業者側で契約内容を条項化したものをいいます。

 改正後は,このような「定型取引」について,業者側が「定型約款」(紙ベースでなくても,デジタルなデータでも良い)を作成した場合,①「定型約款」を契約内容とすることを合意したとき(「定型約款合意」があるとき),又は②業者が予め「定型約款」を契約内容とする旨を相手方に表示していたときに限り,当事者間に(消費者が内容を理解していなくても)約款の効力を認めることになりました(改正民法548条の2第1項)。

 但し,「定型約款」の条項のうち,「相手方の権利を制限し,又は相手方の義務を加重する条項であって,その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして(民法)第1条第2項に規定する基本原則(信義誠実の原則)に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては,合意をしなかったものとみなす」ともしています(改正民法548条の2第2項)。

 これは,「定型約款合意」があるか(前記①の場合)又は予め約款が作成されて表示されているため(同②の場合),約款の内容に沿った合意があるとみなされる場合でも,消費者に一方的に不利益な条項については「合意をしなかったものとみなす」,すなわち,無効とするというものです。

7 瑕疵担保責任から契約不適合責任へ の大幅な見直し

 改正前は,特定物の売買契約(目的物の個性に着目した取引)において,目的物に「隠れた瑕疵」(原始的な欠陥)があった場合の売主の責任を「瑕疵担保責任」として,買主は売主に対して,損害賠償請求又は瑕疵のために契約の目的を達成することができない場合には契約解除をすることが認められておりました(改正前の民法570条,566条)。

 改正後は,「瑕疵担保責任」という制度自体が「契約不適合責任」へと改められました(改正民法562条1項)。これは,責任の対象を,特定物の売買契約において目的物に原始的な欠陥があった場合についてだけではなく,不特定物の売買(目的物の個性に着目しない代替物がある物の取引)において契約の履行(引渡し)までに生じた欠陥にまで広げたことを意味します。

 また,改正後は,買主の取り得る手段として,従前からの損害賠償請求及び契約解除に加えて,修補,代替物の引渡し又は不足分の引渡しといった「追完請求」や(改正民法562条1項),追完がされなかった場合等の「代金減額請求」が規定されました(同法563条)。

 更に,改正後は,損害賠償請求及び契約解除は債務不履行の一般規律に従うことになり(改正民法564条),解除をなすには原則として履行の追完を催告が必要となりました(同法541条)。

投稿者: 三堀法律事務所